真宵:えー! あの貯金箱、落としちゃったの?
成歩堂:うん‥‥両替えしてもらおうと思って、銀行へ持っていく途中で‥‥
真宵:もう! みんなで五百円玉を貯めて、夏休みに海や山へ行こうねって。あんなに固く誓ったじゃない!
成歩堂:そんなに固く誓ってないよ。それに、ほとんど全部、ぼくの五百円玉だし。
真宵:あのねー、なるほどくん。誰の五百円玉かは問題じゃないんだよ。問題は、誰が落っことしたか。
成歩堂:ううう‥‥ゴメン。やれやれ、虎の子の貯金だったのになあ。
真宵:え‥‥? なにそれ。“とらのこ”‥‥?
成歩堂:や。ぼくもよく知らないけど、そう言うみたいだよ。きっと、トラは自分の子をものすごく大切にするんだろうね。
真宵:ははあ‥‥そのあたり、自分の子を粗末にするライオンと“真逆”だね。
成歩堂:え。そうなの?
真宵:だって。ライオンって、自分の子をわざわざ谷に落っことすらしいよ。ポイって。
成歩堂:‥‥なんだか、ニュアンスが違うような気がするけど。
真宵:まあ、結局。なるほどくんの貯金は『トラの子』じゃなくて『ライオンの子』だった、ってワケだね。
成歩堂:うまいコト言うなよ。‥‥まあ、たくましく育って戻ってきてくれたらうれしいけど。
矢張:おおい成歩堂ォ! 事務所にこもってねえでパーッと遊びにいこうぜ!
糸鋸:夏休みッス! 海ッス! 山ッス!
真宵:おお、イトノコさんにヤッパリさん!
成歩堂:矢張。お前、遊びに行くお金なんてあるのかよ。
矢張:へっへー。実はさっき、そこのカドで金を拾ってサ。それでパーッといこうぜ!
成歩堂:いやいや警察に届けろよ! 隣にボンヤリ立ってるじゃないか。
糸鋸:‥‥それを言われるとツラいッス。
矢張:はァ? じゃあオマエ、仮に1億円拾ったら届けるっての? ケーサツ。
成歩堂:そりゃあ届けるよ。
真宵:ええッ! 届けるの? 迷わず?
矢張:はー、話にならねえな。もし拾ったら、コイツを谷底に突き落として山分けしようぜマヨイちゃん!
真宵:おお‥‥ヤッパリさん、なかなかの“ライオン”ですねー。
成歩堂:“ワルモノ”みたいに言うなよ。
真宵:で? で? ブツはどこですか? イトノコさん!
糸鋸:これッス! 貯金箱にぎっしり、夢が詰まってるッス!
矢張:貯金箱の裏に名前が書いてあるぜ? 『なるほどう』だってサ!
真宵:あ、あれ‥‥それって!
成歩堂:ああッ! ぼくの“虎の子”の貯金箱じゃないですか!
糸鋸:はっはァ! アンタの虎の子はイトノコがいただいたッス!
成歩堂:‥‥どんな無法地帯だここは‥‥
真宵:まあまあ、もともと遊びに行く貯金だったんだから。みつるぎ検事も誘って、みんなで行こうよ!
矢張:そう来なくっちゃ! で? 成歩堂。海にする? 山にする?
成歩堂:‥‥海にしようか。
真宵:ほお。そのココロは?
成歩堂:山のぼりの道中でウッカリ1億円拾ったら谷底に突き落とされそうな気がする。