逆転検事1&2 御剣セレクション 開発ブログ ~書きとめたくて

第2回グラフィック制作の『真実』

アートディレクター 岩崎弘典

皆さん、こんにちは。
「逆転検事1&2 御剣セレクション」アートディレクターの岩崎弘典です。
発売から1週間、毎日楽しくプレイしてますか?

・・・ナニ、まだゲームを買っていない・・・それはいけませんね!
「逆転検事1&2」を遊んでいないばかりに人生の“真実”にまだ気付いていない・・・そんなアナタのために、ここでは今作のグラフィックの特徴やオリジナル版からの変更点などについて幾つかお話したいと思います。これを読めばアナタも「逆転検事1&2」が遊びたくてたまらなくなる!

(と、いいなぁ・・・)

過去にNintendo DSやスマートフォン等で発売された「逆転検事」「逆転検事2」をベースとする今作ですが、グラフィックを制作するにあたり最大の難関とされたのは、逆転検事シリーズ一番の特徴でもあるミニキャラ達の扱いでした。
捜査パートで画面を所狭しと動き回るミニキャラ達は2作あわせて登場人物100名以上、モーション数で1200を超える大ボリューム。緻密に作りこまれたドット絵のキャラ達はチョコマカした動きを見ているだけでも楽しい!いや、見ている分には楽しくて良いのですが、これをフルHD環境の大画面テレビで見ても遜色ない形に作り直すとなると話は別で、この凄まじい物量をどうするのかは制作上の大問題でした。

何しろベースになっているスマホ版のドット絵はシルエットこそオリジナル版(Nintendo DS)の倍の解像度に修正してあるものの、それ以外はオリジナル版と同じ解像度の小さな画像のため、これをフルHD環境に見合ったビジュアルにするにはオリジナル版の6倍近いサイズの画像が必要です・・・ってそれバストアップサイズのキャライラスト描くのと作業的に大差ないのでは・・・。

また、モーションといってもすべて手打ちのドット絵ですから、コマの連続で動きを表現する形になります。例えば御剣の《歩く》というモーションの場合、ドット絵では6枚の連続するコマで動きを表現しており、これを8方向(前、後ろ、斜め等)で用意する必要があります。
《歩く》ひとつでこの調子ですから、さらに《走り》《驚き》《異議あり》等のモーションも作り、これをイトノコや美雲など他のキャラでも同じように作るとなると、いったいどれほどの作業量になることやら・・・考えただけで気が遠くなりました。

とはいえ今の時代にあらためて出す以上は何とかせねば!と、まずはドット絵をベースにした改善案の検討を始めました。一から描き直すのはあまりに作業が重く、すぐには決断できなかったのです・・・。
ドット絵の密度を倍にする、フィルタ処理で滑らかにする等いろいろ試してはみたのですが、いずれも良い結果を得ることができませんでした。
3Dモデル化についても検討してみましたが、限られた期間で100体以上のモデルを制作しドット絵で表現されていた繊細な動きをもれなく3Dでも再現するとなると、作業量の面でも表現スタイルの面でもおよそ現実的ではないという話になりました。
また、捜査パートの背景はフルHD化するとはいえ2Dのままなので、背景との整合性という面でも難しいものがありました。

思いつく限りの試行錯誤の結果、これはもう修羅の道を進むしかないと腹を括り「フルHD環境にあわせて全部描き直す」という一番シンプルかつヘビーな方法で進めることになりました。スタッフのみんな、許してくれ・・・。

次に問題になったのはミニキャラのデザインです。なにしろ元が小さなドット絵ですから、高解像度で描き直すにしても絵の解釈の幅が広すぎる。また、背景にあわせドット絵の5.5頭身を踏襲する必要もありました。
ふつうキャラのディフォルメといえば2頭身とか3頭身ぐらいのかわいらしいデザイン、というのが相場ですが、これが5.5頭身となるとリアルとカワイイの中間あたり、場面によって可愛くもカッコよくも見えるという絶妙なバランスが求められます。
ドット絵の雰囲気と表現を残したまま、絶妙な5.5頭身のディフォルメで、なおかつ対決パートに登場するリアル頭身のキャライメージとも一致しならなければならない・・・。
この難解な方程式を解けるのはあの人しかいない!という訳で、御剣登場・・・ではなく「逆転検事」シリーズのキャラクターデザイナーである岩元辰郎さんにミニキャラのデザインと監修をお願いすることになりました。

最初に御剣のデザインをお願いしたのですが、さすがというべきかリアルとカワイイの間を繋ぐ絶妙なバランスの御剣をデザインして頂きました。
シリーズのデザインを担当されてきた方だからこその視点やこだわりが詰まったデザインだと思います。
あぁ、ちょっと希望が見えてきた・・・!

こうして始まったミニキャラのデザイン作業ですがキャラ総数100人以上と数が多いため、主役の御剣を中心にメインキャラクターを岩元さんがデザイン、それ以外のキャラについてはカプコン社内のスタッフがデザインしたものを岩元さんにチェック、修正頂くという形で作業を分担しています。
デザイン作業に当たってはドット絵では(制作当時の技術的な問題で)あまり反映できなかった各キャラの身長差をディフォルメながら反映させています。各キャラの意外な大きさ、小ささに注目してみてください。

デザインができたら次はアニメーション作業です。作業工程としては手書きのアニメーション制作に近く、ドット絵のポーズを参考に、まずドット絵のコマと同じ数だけの原画を描き、色を付けます。この段階でもドット絵と同じ動きにはなるのですが、一部のモーションについては2Dアニメーションツールを使って中間ポーズを差し込み、動きをさらに滑らかにしています。
最初はアニメーションツールのモーション補完機能を使うことを考えていたのですが、実際にやってみると違和感が大きく、あれこれやってみた結果、今の形に落ち着きました。
手描きアニメ的なメリハリのある動きになったと思います。

アニメ作業でとにかく大変だったのは一番最初の原画作業で、小さなドット絵を元に高解像度の原画、それもアニメーションの原画を大量に描くのはアートワークに秀でたスタッフにとってもかなりの難作業でした。
小さなドット絵ではなんとなく脳内補完されていた細かな動きや表情も高解像度化に伴い、すべてきっちりと表現しなければなりません。
このドット絵キャラの1ドットしかない目は開いているのか閉じているのか、御剣の前髪や胸のヒラヒラは揺れるのか揺れないのか・・・悩みながら一つ一つ具体的なビジュアルに起こしていきました。

また、全キャラのデザイン完了を待っていてはアニメーション作業が間に合わないため、デザインの完成したキャラから順次、アニメーション作業に入る形をとっていました。そのためデザイン作業は常に締め切りとの闘いとなり、デザイン提出と岩元さんのチェックを繰り返す日々が延々と続きました。

スケジュールはどんどん遅れていくしアニメ原画はなかなか上がらないしで、コレ本当に終わるんだろうか・・・という感じだったのですがチーム上げての総力戦でなんとか乗り切ることができました。
連日のハードワークに耐えて頑張ってくれたスタッフ、全力でサポートしてくれたチーム、そしてミニキャラのデザイン作業に引き続き一部キャラのアニメ原画まで担当してくださった岩元さんにはただただ感謝です!

細かい改善点としては、ミニキャラが周囲の背景により自然に馴染むよう、ちょっとしたライティングを施しています(モダン表示のみ)。
夜のステージや影のあるステージなどで御剣をあちこち動かしてみるとライティングの違いが感じられると思いますので、ぜひ試してみてください!

グラフィックを一新したのはミニキャラだけではありません。
捜査手帳やロジック画面などの操作部分全般、「逆転検事2」のロジックチェスなどもビジュアルを一新しました。
全体に直線を基調としたアール・デコ調の意匠を取り入れることで、モダンながらも御剣らしい優雅さを表現しています。
ロジック画面はパズル風のデザインで、キーワードのパズルがピタっとはまった時のアニメーションが気持ちいいです。御剣の頭の中を覗いている気分で思考のパズルを解いてみてください!

ロジックチェスもオリジナルの雰囲気を残しつつモデルをすべて作り直しました。
オリジナル版ではカクカクしていたチェスの駒を滑らかなデザインに変更し、背景にあわせてライティングを施しています。だいぶクールな感じになったと思うのですがいかがでしょう?

背景やイベントシーン、対決パートでのリアル頭身のキャラ、証拠品などについてはオリジナル素材をベースに高解像度化と縦横比16:9のワイド画面対応を行っています。
足りない部分は描き足し、ディテールが甘い部分は大幅な修正を加えました。
御剣の六法全書の表紙もバッチリ読めるようになっています!

証拠品の3Dモデルも高ポリゴン化しました。オリジナル版同様のイラスト調ビジュアルになっているので違いがちょっと分かりにくいのですが、実はめちゃくちゃ滑らかになっています!
地味なところですが、こういったところにも注目してもらえると嬉しいです。

今回の「逆転検事1&2」は各国語版への対応もひとつのポイントになっています。特に「逆転検事2」については日本以外の地域では初のリリースとなりますので、グラフィック面でも各言語で違和感が出ないよう頑張りました。
ゲーム中に中途半端なローカライズを見つけると悲しくなってしまうのは万国共通ですからね。
「異議あり!」などのフキダシはもちろんのこと、パンフレットの文字や街の看板、温度計の表示(摂氏と華氏)から自動販売機のお菓子のパッケージ、果ては部屋のテレビのブランドロゴや御剣の名刺の形に至るまでがっつりローカライズしてあります。
ローカライズディレクターのジャネットさんの執念・・・いや熱意に答えていった結果、気づいたらそうなってました・・・。

(ごめんなさいぃぃぃ!そして、ありがとうぅぅぅ!(泣)by ジャネット)

オプションの「言語設定」の切り替えで全言語遊ぶことができますので、マルチリンガルの方は何がどう変わったのか、言語による表現の違いを楽しんでみてくださいね。

(さすがに7言語すべて理解できる方はそうそういないと思いますが・・・)

大幅に作り直したところ、オリジナル版を元に高解像度化したところなど色々ありますが、やはりオリジナル版の良さあってこその今作。オリジナル版の持つ雰囲気を壊さないよう、注意しながら制作しました。
過去にオリジナル版やスマートフォン版などを遊んで下さった方にも楽しんで頂けると思います。

どうでしょうか?人生の「真実」が見えてきたでしょうか?
「逆転検事1&2」のある人生、楽しいですよ!

(なんの勧誘だろう、これ・・・)

次回はディレクターの坂井さんの登場です。ミッちゃん愛にあふれた坂井ディレクターが明かす「逆転検事1&2」開発の“真実”とは!?

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