開発ブログ

第 6 回

プロデューサーとしての覺悟

メインプロデューサー 牧野泰之

皆さま、はじめまして!こんにちは!
『大逆転裁判1&2 -成歩堂龍ノ介の冒險と覺悟-』メインプロデューサーの牧野泰之と申します。ようやく、ついに、とうとう、発売日を迎えることができました。ここまでホントに長い道のりでした。
さて、発売日を迎えたところで、僕にとっての『大逆転裁判』や『逆転裁判』に対する思いや考えを、本作がプロデューサーとしてのデビュー戦でもありますので、経歴などもふまえながら語らせて頂こうと思います。少々お付き合い頂ければ幸いです。

僕はカプコンに入社する前、広告プロモーション業界で約10年程働いていました。業界でのラストイヤーに、大学の頃ぐらいから一度は携わってみたいなぁと思い続けていた、とある有名アニメのプロモーション関連の仕事でフルスイングさせてもらえる機会を頂きました。広告業界でやりたかったことはその際に全部やり切ったという思いがあり、その仕事が終わった直後に人生の次なるチャレンジとして「ゲームを作りたい!」を掲げたのです。そして、どこで作る?を考えた際に、真っ先に浮かんだのが”カプコン”だったわけですね。

なぜカプコンだったのか?元々大阪出身だったから。ということもその理由の5%ぐらいはあるのですが、何よりも”狂気をはらんだ異常なゲーム(200%ほめ言葉ですよ)を世にバンバン送り出しているとんでもない会社”という印象が昔からとにかく強かったんです。『魔界村』『ロックマン』『ファイナルファイト』『ストリートファイター』『バイオハザード』『鬼武者』『デビル メイ クライ』『モンスターハンター』・・・・と、挙げていったらきりないですね。その中でも僕にとって、とりわけ異彩を放って見えたのが『逆転裁判』なのでした。

実は僕が『逆転裁判』シリーズを初めてプレイしたのは社会人になってから。しかも『4』から始めたのですが、とにかく衝撃が走りました。”裁判”や”弁護士”というワードからは想像もつかない、はるか斜め上を行くゲームデザインと面白さ、そして登場キャラたちでした。弁護士になって裁判を体験するゲームということにそれまで全くピンときておらず、ずっと手に取ってこなかったことを悔やみました。『4』をクリアした翌日には『1』『2』『3』の全てを買いにダッシュしている自分がいました。裁判という、一見すると固そうな題材なのに、「カプコンの手にかかればこんなにもブッ飛んだカタチで、こんなにも鮮やかに着地させられるんか・・・凄まじくクリエイティブな会社やな。。。」という思いを『4』『1』『2』『3』をプレイして、強く感じていたわけです。

※DS版『逆転裁判4』のパッケージ(日本版)

『逆転裁判』みたいなとんでもないゲームが作れてしまう(≒世に出せてしまう)会社で、ゲーム作りがしてみたい!という思いでカプコンのドアをノックしてみる決意をしました。そんなわけですから、入社面接では「逆転裁判が好きです。いつか逆転のプロデューサーをさせて頂きたいと思っていますッ!!」というようなことをゲーム作りの知識ほぼゼロだった当時の僕は力説し、熱意の一点で(かどうかは分かりませんが)入社させてもらったのです。そういう事情で入社したわけですから、逆転シリーズの仕事をする機会はずっとうかがっていましたよ。

初めて逆転シリーズに関われるチャンスがやって来たのが3DS版の『大逆転裁判1』、基本的にはプロモーションのお手伝いで完全に裏方的な仕事でした。プロモーション施策として100個の難問クイズを作ったり、それをWEBサイト用の素材に変えていく作業をずっと1人でやってたり、試遊イベントの対応や映像作品の「成歩堂龍ノ介の罪深き七日間」のアイデア出し等々、結構色々やってましたね。物語の佳境まで(しか触ってなかったのが後の悲劇につながるのですが)テストプレイもさせてもらっていて、キャラと世界観の魅力はシリーズ随一と思いましたし、事件もむちゃくちゃ面白い!共同推理と陪審バトルの新要素もしっかりしてる!ということで、とにかく皆さんに楽しんでもらえるのを心待ちにしていました。

※3DS版『大逆転裁判』発売当時に日本で実施したキャンペーン企画「100のクイズ」の問題画像。

※「成歩堂龍ノ介罪深き七日間」の提案書

・・・で発売初日。「お、やっぱり反応良さそうやぞ!よしよし!」と思いながら、土日をまたいだ翌週の月曜日。ECサイトのレビューが凄いことになっていました。色々な書かれ方がされていましたが、ヒトコトに要約すると「未完なので最低最悪」という投稿が続いていました。開発に直接的には関わっていなかった僕ですら、心が折れそうになるくらいの酷評の嵐だったわけです。で、当時の上司から「レビューをまとめておいてくれ」とのオーダーを受けた僕は、好きな作品と尊敬する開発メンバーが酷評されまくっていることに、泣きそうになりながら1個1個レビューを読み、レポートとしてまとめていきました。本当にあの時は鬱になるかと思いました。それぐらいツライ時間でしたね。で、その2年後に出る3DS版の『大逆転裁判2』の時には他のタイトルに関わっていたこともあって、僕は一切関わることは出来ませんでした。

3DS版の『大逆2』、当時の開発現場の様子を直接見ていたわけではないんですが、開発チームの鬼気迫るような作業っぷりや、命を削って走り続けている様子はダダ漏れで聞こえていましたし、3DS版『大逆2』の発売以降、開発メンバーと仲良くなる機会や他の仕事をする機会も随分増えたので、色んな話をしてもらいました。当時のメンバーからすれば僕はある種の部外者なのですが、部外者の中では圧倒的にあの時の事情に詳しくなれたのかなと思います。『大逆2』は幸いなことに、ファンの皆さんからものすごく高い評価をして頂けているので、遊んでくれた皆さんにもメンバーの苦労は伝わったんだろうなぁと思っています。しかし、開発メンバーの執念にはホントにもの凄いものがありました。ゲームを遊んでいて制作者の執念みたいなモノが感じられることは結構まれなことなんじゃないでしょうか?僕にとっても、カプコンのゲームをクリアして涙を流したのは『大逆転裁判2』だけかな・・・・?と思います。手前みそで恐縮ですが、凄まじく良く出来たゲームです。

※3DS版『大逆転裁判2』のメインアート(日本版)

『大逆転裁判』は、ファンの皆さんがよくコメントして下さるように ”大逆2まで通してプレイすれば神作”
僕もずっとそう思い続けてきましたし、もっと言えば”世界最高峰のミステリーエンターテインメントの1つ”ぐらいのことまで思い続けていました。ですから、海外に出せてないのも悔しいし、『大逆1』でプレイするのをやめてしまった方がいるのも悔しいし、『大逆1』を手に取ってすら頂けなかったファンの方がいるのもむちゃくちゃ悔しい。オリジナルメンバーじゃなく、ここまで悔しがっている人間はまぁ珍しいのかもしれませんね。

逆転が好きでカプコンに来たわけですし、当時のメンバーの思いもたくさん聞いてましたから、”『大逆転裁判』をもう一度、しかも今度は世界に向けて届け直すことは僕の使命なのでは?”と、ある時から勝手に思うようになっていました。いくつかのタイトルを経て、プロデューサーとしての経験を積みつつあった僕は、とある打合せの場で、例のレビューをまとめておいてくれという指示を出した上司に、「大逆1と大逆2をひとまとめにして、現行機へ移植するプロジェクトを始動させて頂けませんか?絶対売れますし、何としてでも売って見せますので!」と直談判してみました。すると・・・・思いのほかあっさりと「なるほどね・・・ナシじゃないからまずは計画作ってみてよ」との回答が!!!その瞬間、『大逆転裁判1&2』プロジェクトの扉が音を立てて開いたわけですね。

※本作『大逆転裁判1&2』プロジェクトで一番最初に書いた提案書の表紙。
ローカライズDのジャネットと一緒に最終的にはVer1.7まで作成してました。

元々の3DS版が妥協なく作られていた(むしろキャラモデルとかは多分オーバースペックですw)ので、『1&2』でも妥協したくはない!ということで、今回のメンバーにはちょいちょい無茶言いながら、かなり色んな要素をてんこ盛りで開発してもらいました。前回のブログでディレクターの交合がその辺りをぼやいていましたが仕方ない。なんせ僕はここで頑張るためにカプコンに来た訳ですから、付き合ってもらうほかない(笑)
特別付録やストーリーモードなど『1&2』の要素は、『大逆転裁判』をとにかく世界中に届けるための手段、そして取れる手段も全部取る!の一念で用意してもらいました。今回の開発メンバーが、より遊びやすく、より綺麗に、そして丁寧に、積み上げてカタチにしていってくれたと思っています。お疲れ様でした。そしてありがとう!

たくさんのメンバーの思いの詰まった 『大逆転裁判1&2 -成歩堂龍ノ介の冒險と覺悟-』
一人でも多くの方にプレイしてもらい、楽しんで頂けることを心の底から願っています。

この辺で今回のブログは締めようと思います。次回は今作の『1&2』ロゴや英語版ロゴについての制作秘話のお話を予定していますので、もしよければ次回もお付き合い下さい。それでは、また。